ずっと続くはずがなかったのだ。 新しい彼氏と一緒に暮らすことになったから、この部屋を出る。そんな趣旨のことを朋香(ともか)はわたしに告げた。彼女が最近始めた、創作居酒屋のバイトから帰ってきた直後に。ごめんねー、と謝る口調は軽いものだった。 でも真剣なトーンで謝られるよりは、ずっとマシだった。 バイトを終えたあとでビールを飲ませてもらえるのが嬉しくて、と前に話していた、そのビールが理由なのか、朋香の頬は赤らんでいる。しっかりと施されたメイクは、数時間働いたせいか、若干アイラインが滲んだようになっているものの、この子は相変わらず可愛い。自分が可愛いことを知っている。 怒っても仕方ないとわかっていた。怒ったって泣いたって、朋香は自分の意思を曲げない。一緒に暮らしてきた一年半のうちに、いや、友人関係を築いた四年前から、思い知らされていた。 「そっか」 答えたわたしに、不動産屋さん行かなくちゃね、と朋香はすぐに言った。こんにちは、と言われて、こんにちは、と返すような早さに近かった。 「え、いつ?」 「早いほうがいいでしょう? だって、麻理恵(まりえ)、この部屋の家賃全部払うのは無理じゃない?」 そこまで言われて、探そうとしているのがわたしの部屋であって、朋香のものではないのだと気づいた。 現在、家賃はわたしのほうが多く負担している。部屋が八畳と六畳で、少し広めのほうをわたしが使っているという理由からだけど、本当は狭いほうだって構わない。玄関やリビングや浴室といった、二人のスペースには、わたしのものよりも朋香のもののほうがずっと多い。もし厳密に割り勘しようとするのであれば、半額ずつか、むしろわたしの支払い分が少なくなるくらいかもしれない。 でもさして不満はなかった。正社員として働いているわたしのほうが、フリーター生活を続ける朋香より、収入は多い。生活に支障をきたさない範囲であれば、払いつづけるつもりだった。 ただ、すべてを負担となってしまうと、さすがに厳しいものがある。新たな共同生活者を探すのは困難だし、確かに朋香の言うように、早いうちに新たな物件を探すのがいいのだろう。 それでも少しひっかかる。 自分の代わりに誰かが入る可能性とか、わたしが家賃をすべて負担して住みつづける可能性とか、そうした道を探ってから、不動産店に行くのを提案したって遅くないんじゃないだろうか。 まるで追い出したいみたいだ。出て行きたいのは、朋香だけなのに。 「じゃあ近いうちに行ってくるよ」