よみもの・連載

捜し物屋まやま3

第一話 後編

木原音瀬Narise konohara

「悪いな〜芽衣子(めいこ)」
 和樹(かずき)は、去年の秋から「それって制服デスカ?」って聞きたくなるほど毎日着ているモッズコートとジーンズ姿で、駅前にあるコンビニの横に立っていた。四月になって暖かくなり、ようやくモッズコートから脱皮したなと思っていたのに、少し肌寒くなったらまた着てる。人のことなんて放っておけだけど、他に服持ってないの? と聞きたくなる。
「別にいいけど。白雄(しお)は本業が忙しくて抜けらんないし、あたしは時間あるし〜」
 頭から足許(あしもと)まで和樹の視線が自分を辿(たど)り「何でお前、いつも黒い服なの?」と聞いてきた。それ、あんたにだけは言われたくない。
「かっこいいじゃん」
 黒いカットソーに黒いパンツ、黒い上着でオール黒。黒はどんな色も飲み込んで、神秘的に見せてくれる。そして絶大な虫除(よ)け効果がある。オールブラックで満員電車に乗って、痴漢にあったことは一度もない。
「白雄もいっつも黒なんだよな。ま、どーでもいいんだけどさ〜」
 和樹は腰に手をあて、フーッと息をついた。白雄は背が高くて百八十センチ以上ありそうだが、和樹は低い。百六十センチの自分がヒールを履いたら、余裕で飛び越す。ほんとちっちゃい男だな〜と思っても、言わない。男の身長は、異性から見た女の胸と同じ。人によっては地雷を踏みぬくので、口にしないのが無難だ。
 和樹から「ちょっと手伝って欲しいことがあんだけど」と連絡があったのは、一時間前。由香(ゆか)の自転車を見つけたので、盗んだ相手と交渉するのを、証拠保全のために隠し撮りして欲しいとのことだった。普段は白雄に頼むけど、白雄はマッサージの予約が詰まってて余裕がないので、客の施術中は暇を持て余してるバイトの自分に声がかかった。電話の件さえなければ、あの店は一人で余裕で回せる。白雄のOKも出たし、由香の自転車は自分が紹介した案件なので、ストーカーってどんな奴だろな、という興味もあった。
「じゃ行くか〜。そいつの事務所、すぐそこなんだよ。建物の真ん前にバス停あるから、芽衣子はそこでバス待ちしてる振りして撮ってよ。外で話そうと思ってるけど、中だったらまぁ……仕方ないか」
 よくよく考えたら隠し撮りで証拠保全とか、用心深過ぎる。もしかして……。
「事務所ってことはさ、相手ってヤクザとかヤバい奴だったりするの?」
 和樹は両手を左右にブンブン振った。
「違う、違う。ってか、そんな怖い奴だったら芽衣子には危なくて頼めないし。でかくて鬼握力の白雄はともかくさ」

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(27) 捜し物屋所長&小説家。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(27) 捜し物屋スタッフ&マッサージ師。冷血な能力者。

徳広祐介(39) ドルオタ弁護士。捜し物屋と同じビル内の法律事務所に勤務。

三井走(37) 捜し物屋の受付&法律事務所の事務担当。天涯孤独の元引きこもり。

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