第二話 後編
木原音瀬Narise konohara
ボランティアの登録フォームに入力し送信したら、翌日には西根(にしね)の東京事務所のスタッフ、友沢(ともさわ)という人物から『面接したいのですが、七月十九日の午後二時に東京事務所までお越しいただけますか?』とメールがきたので、即『行きます』と返事をした。
西根の東京事務所は、新宿駅から北に徒歩十五分ぐらいの場所にあったものの、スマホナビのトラップに嵌(は)まり、道に迷って到着するのに三十分ぐらいかかった。東京は日中の気温が三十度を超えていて、脇ぐっしょりのレベルで汗をかいた。
事務所は古いマンションの三階、2LDKの一室だった。志村(しむら)の事務所は倉庫みたいな三階建てだったので、地方に選挙区がある国会議員の東京事務所はどこもこういった風に簡易的なものなのかもしれない。
議員事務所のスタッフというと、地味で真面目な学校の先生というイメージがあったが、友沢は三十代後半、グレーのパンツスーツに身を包んだ、モデル並みにスタイルのいい眼鏡美女だった。
部屋の隅には段ボールが無造作に積み上げられ、いかにも引っ越ししたてという雰囲気のリビングで、ソファに向かい合って腰掛けてアイスコーヒーを飲む。何とも雑然としたアットホームな調子で面接ははじまった。
「京都事務所は地元だしボランティアも多くいるけど、東京事務所は開設したばかりでまだ全然人が集まらなくて」
友沢は先日和樹が申請したフォームをプリントアウトしていて、それを見ながら色々と聞いてくる。
「間山(まやま)君、職業は不動産業なのね」
捜し物屋兼作家という肩書もあるが、本が出てないし、捜し物屋はレアで深掘りされると面倒臭いので省いた。
「その若さでビル管理って珍しいわね」
「あ、もとは父親の持ちビルだったのを譲り受けてって感じで」
瞬間、友沢の眼鏡の奥の目がわっと見開かれた。義父の名前と職業、自分の学歴を聞かれたので答える。すると友沢は「ボランティアじゃなくて、インターンシップはどう? 勉強会にも参加できるし、将来的に議員秘書なんかの可能性もあるわよ」と薦められた。
「まだこの業界のこと何も知らないんで、お試しでボランティアがいいかなって〜」
そう、と友沢は残念そうだった。
「もしインターンシップのほうに移行したいなら言ってね」
念をおされた。事務所で知り得たことは口外しない的な念書にサインをして、正式にボランティアとして登録される。友沢曰(いわ)く、選挙も終わったのでこれからは支援者へのお礼状の宛名書き、封入作業など雑務が回ってくることが多いかもとのことだった。
- プロフィール
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木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。
- 登場人物
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間山和樹(27) 捜し物屋所長&小説家。白雄とは血の繋がらない兄弟。
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間山白雄(27) 捜し物屋スタッフ&マッサージ師。冷血な能力者。
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徳広祐介(39) ドルオタ弁護士。捜し物屋と同じビル内の法律事務所に勤務。
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三井走(37) 捜し物屋の受付&法律事務所の事務担当。天涯孤独の元引きこもり。