連載
沖縄はどう生きるか
②元海兵隊員も反対の座り込みに参加する辺野古埋め立てと高江のヘリパッド基地 佐野眞一 Shinichi Sano

菅官房長官と翁長沖縄県知事の因縁の対立
 今年2月4日に投開票が行われた名護(なご)市長選で、普天間(ふてんま)基地の辺野古(へのこ)移設反対を打ち出す現職の稲嶺進(いなみねすすむ)が敗れ、辺野古移設を事実上容認する自民、公明、維新推薦の渡具知武豊(とぐちたけとよ)が当選した。票差は約3500票だった。大敗といってよい。
 この市長選は沖縄の将来を占う意味で重要な選挙だった。自民党は小泉進次郎(こいずみしんじろう)をはじめとする知名度の高い国会議員を次々と派遣して新人候補を応援した。
 一方、三選を目指す稲嶺進の応援には翁長雄志(おながたけし)沖縄県知事がほぼ連日名護市入りし、基地は経済発展の邪魔になると訴えた。
 この市長選で一番特徴的だったのは、懸案の「辺野古問題」を両候補とも避けたことだった。稲嶺は中国からパンダを誘致し、名護の経済発展の目玉にしたいと訴えた。渡具知も「辺野古問題」にはふれず、稲嶺の三大失政として「日ハムの名護キャンプ地移転」「財政悪化」などを挙げた。
 自民党や内地の一部マスコミは、稲嶺の「パンダ誘致」の公約を嘲笑したが、渡具知が稲嶺の失政としてあげつらった「日ハムの名護キャンプ地移転」も同じようなものである。
 別に稲嶺の肩を持つわけではないが、そもそも自民党に「パンダ誘致」を笑う資格はない。
 4年前の沖縄県知事選で、現職の仲井眞弘多(なかいまひろかず)の応援に駆けつけた菅義偉(すがよしひで)官房長官がユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の沖縄誘致を勝手に公約して、USJ側を困惑させたことをもう忘れたのだろうか。
 この名護市長選の敗退は、今年11月に行われる沖縄県知事選に少なからぬ影響を与えるだろう。しかし、私は政治記者ではないので、翁長が勝つか負けるかについては、実はあまり関心がない。
 それよりずっと興味があるのは、沖縄の選挙戦であぶり出される複雑怪奇な人間模様である。
「辺野古埋め立て容認」と引き換えに、官邸から毎年3000億円台の沖縄振興予算を引き出したとき、仲井眞は「これは良い正月になるなぁというのが、私の実感です」と言ってのけた。
 この発言が仲井眞の命取りとなり、かつて腹心だった翁長の当選に道を開いた。だから仲井眞は今でも翁長を不倶戴天の敵と見定めて憎みに憎んでいる。
 名護市長選直前、仲井眞は「活動家と化した翁長君へ」と題して、こんな発言をしている。(「SAPIO」2018年1・2月号)
〈いったい沖縄をどうしようとするのか、この人物は意味不明です。ただ反対を叫ぶだけでは活動家のようなものではないですか〉
 いやしくも現職の知事をつかまえて、「活動家のようなもの」とは言いも言ったりである。しかし、この発言には仲井眞の翁長に対する憎しみがストレートに語られていて、私はむしろ仲井眞の珍しく率直な吐露(馬鹿がつく正直な告白と言いかえることもできるが)に、あえて言うなら好感をもった。
 仲井眞はまた「文藝春秋」の2018年4月号で、「翁長知事はハーメルンの笛吹き男だ」と決めつけ、こう述べている。
〈彼はハーメルンの笛吹き男のようです。沖縄県民をいったいどこに連れて行こうとしているのか。前回の知事選挙の時から「あらゆる手段で辺野古移設を阻止する」と表明していましたが、実現の方法を示すこともなく、徒(いたずら)に本土と沖縄の分断を深めるばかりです〉
 しかし、仲井眞の文章全体から受ける印象は、かつての腹心に裏切られた愚痴のオンパレードである。



 
〈プロフィール〉
佐野眞一(さの・しんいち)
ノンフィクション作家。1947年、東京生まれ。97年『旅する巨人 宮本常一と渋沢敬三』で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年『甘粕正彦 乱心の曠野』で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に、『巨怪伝』『東電OL殺人事件』『だれが「本」を殺すのか』『沖縄だれにも書かれたくなかった戦後史』『沖縄戦いまだ終わらず』など多数。
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