よみもの・連載

犬義なき闘い

第2回 闘犬ファミリー

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「ドンドンド〜ン、ド〜ンキぃ〜、ドンキぃ〜ホぉ〜テぇ〜。ボリュームま〜んてん激安ジャングルぅ〜!」
 闘犬ファミリーのアジトである「ドン・キホーテ歌舞伎町店」の最上階……九階フロアに、愛玩犬ファミリーのボスの短毛チワワがソプラノボイスで歌う「ドン・キホーテ」のテーマソングが響き渡っていた。
 フロアの中央では、一メートルの高さに積み重ねた高級マットレスの上に寝そべった土佐犬が、三十センチの特大牛骨をバリバリと音を立てながら齧(かじ)っていた。
「ドン・キホーテ」は食料、飲料、衣類、おもちゃが豊富で各ファミリーがこぞって狙っていたが、闘犬ファミリーが圧倒的な武力で奪い取った。
 地下から三階フロアまでは約百頭の準構成犬である半グレ犬の、四階から七階までは約五十頭の構成犬の棲(す)み処(か)だ。
 八階には幹部犬の秋田犬、ピットブルテリア、マスチフ、狼犬(おおかみいぬ)の四頭が棲み、九階は組長である土佐犬の専用フロアとなっていた。
 土佐犬の前には、四頭の半グレ犬が仰向けに寝転がり腹部を見せる服従の姿勢で震えていた。
 三頭……黒半グレ犬は右耳をちぎられ、白黒斑半グレ犬は鼻が裂け、茶半グレ犬は右前脚の肉球を潰されていた。無傷なのは戦わずしてシェパードに白旗を上げた灰色半グレ犬だけだった。
 半グレ犬の左右には、闘犬ファミリーの若頭の秋田犬と特攻隊長のピットブルテリアが姿勢よくお座りしていた。
 フロアのドアの周辺では、マスチフと狼犬が鋭い眼光で警備していた。
 マスチフはローマ時代にライオンと戦わされていた伝説を持ち、体高九十センチ、体重百十キロという土佐犬を上回る体格を誇っている。
 ライオンと戦っていただけあり、単純な力比べなら土佐犬を凌駕(りょうが)していた。
 狼犬は狼とシェパードの間に生まれたハイブリッド犬で、野性の血が色濃く、警戒心に富んでおり身体能力が純粋な犬より高く咬(か)む力も桁外れに強い。
 潜在能力は闘犬ファミリー一と噂(うわさ)される実力犬で、三度のドッグフードより戦闘が好きな土佐犬もピットブルテリアも狼犬に一目置いている。
「おんしら四頭もいてよ、ポリ犬二頭にクシャクシャにされて尻尾(しっぽ)垂れて逃げてきたっちゅうがや!? おおっ!?」
 土佐犬が特大牛骨を真っ二つに噛(か)み砕き、フロアの空気を震わせるような野太い低音で凄(すご)んだ。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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