よみもの・連載

犬義なき闘い

第4回 闘犬ファミリー

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「なんだ……あの大群は!?」
「白い狼(おおかみ)だぞ!」
「狼が攻め込んできたのか!?」

 居酒屋から出てきた紀州犬(きしゅういぬ)、コンビニエンスストアから出てきた柴犬とチャウチャウが強張(こわば)った顔で叫んだ。
 通行犬も四肢を止め、驚愕(きょうがく)の表情で凍(い)てついた。
 白狼犬が率いる五十頭の狼犬軍団が、西新宿のアスファルトを疾駆していた。
「目指すは『京王(けいおう)百貨店』だ! 道中で喧嘩(けんか)を売られても無視しろ! ちょっかいも出すな!」
 幹部でリーダーの白狼犬が、疾走しながら背後に続く狼犬軍団に命じた。白狼犬の体高は八十五センチ、体重は八十キロと通常の狼犬より大きな体躯(たいく)をしていた。
 五十頭の狼犬軍団は、灰色と黒の毛色の狼犬が半々だった。狼犬達はリーダーより一回り小さかったが、それでもシェパードと同等の大きさはあった。
 狼犬は狼の血が七十五パーセント以上混じっている個体をハイパーセントウルフドッグと呼ぶ。ハイパーセントであればあるほど狼の性質が色濃く現れ、体も大きく身体能力も高くなる。体格が同じなら、一般的には犬よりも狼犬の戦闘力のほうが上だ。
 だが、戦闘力にも個体差があるので必ず狼犬が犬に勝つというわけではない。たとえば、闘犬ファミリーの特攻隊長――体重四十キロのピットブルテリアが七十キロの狼犬と闘ったら間違いなく勝つだろう。
 リーダーの白狼犬は狼の血が九十パーセント以上混じるスーパーハイブリッドウルフドッグで、闘犬ファミリーの中でも土佐犬組長やピットブルテリアと互角の戦闘力を持つと言われる実力犬だ。
「京王百貨店」まで五十メートルを切った。
「いいか、よく聞け! この時間幹部犬はアジトの新宿署にいる! 百貨店を警護しているのはシベリアンハスキーとポインターの警備犬が数十頭だ! 躊躇(ためら)わずに皆殺しにして、食料を運び出せ!」
 白狼犬が疾走しながら、狼犬軍団に檄(げき)を飛ばした。
「狼もどきのハスキーと猟犬のポインターなんて楽勝っすね!」
 背後から聞こえた声に、白狼犬が四肢を止めた。
「いま、誰が言った?」
 白狼犬は狼犬軍団を見渡した。
「俺っす!」
 四列目にいた灰色狼犬が、右の前肢を上げた。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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