よみもの・連載

犬義なき闘い

第5回 闘犬ファミリー

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「それ以上、近寄らないで! 私は警察犬よ!」
 ハナが恐怖に顔を強張(こわば)らせながらも、ピットブル特攻隊長に叫んだ。
「知っとるに決まっとるやんけ! 警察犬の雌をレイプして殺すんは、そこらの雌より百倍興奮するわい!」
 ピットブル特攻隊長が、卑しく笑い舌なめずりした。
「ワレらは、ボランティアの雌を好きにしてええぞ。俺は婦犬警官を頂くさかいな」
 ピットブル特攻隊長は隊犬に言うと、ハナに近づいた。
 ピットブル特攻隊長の前に、白狼犬が立ちはだかった。
「なんやワレ? どけや」
 ピットブル特攻隊長が、金色の瞳で白狼犬の蒼い瞳を睨(にら)みつけた。
「もう警備犬は皆殺しにした。雌なんかどうでもいいから、早く食料を運び出そう」
「ワレは、なにを言うとるんや? まだ、こいつらが生きとるやないけ」
 ピットブル特攻隊長がニヤニヤしながら、ハナとボランティア犬を右前肢で指した。
「早くしないと、警察犬ファミリーが乗り込んでくるかもしれない。まずは、食料を……」
「妹を無事に返してほしいなら、邪魔せんとおとなしく出て行けや」
 ピットブル特攻隊長が白狼犬を遮り言った。
「妹!? どういうことだ!? 妹になにをした!?」
 白狼犬が血相を変えた。
「ワレが幼馴染(おさななじ)みの顔見て変な気を起こさへんように、妹を配下に拉致させたんや。まだなにもしとらへんから、安心せいや。まだ、やけどな」
 ピットブル特攻隊長が、犬歯を剥(む)き出しにして笑った。
「貴様っ、ふざけたまね……」
「ふざけたまねしとるのは、ワレやろうが! 敵になに情けかけとんねん! 親分に言われたやろうが! 雄は皆殺し、雌はレイプして殺せってな! 邪魔せんとおとなしく出て行くんやったら、今日のことは忘れてやってもええ。妹も解放してやるさかい。せやけど、逆らうんやったらこいつらの代わりに妹をレイプして、内臓引き摺(ず)り出したるで!」
 ピットブル特攻隊長が、白狼犬に怒声を浴びせた。
「くそっ……。妹に肉球一つ触れたら、お前を八つ裂きにしてやるからな!」

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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