よみもの・連載

犬義なき闘い

第6回 警察犬ファミリー

新堂冬樹Fuyuki Shindou

 西新宿の街を疾走するドーベルマンの視界の景色が、猛スピードで後方に流れてゆく。
 警察犬ファミリーのサブボスのあとには、百頭のドーベルマン隊犬が続いていた。
『ガセじゃありません! 土佐犬組長はマスチフに巨大犬ファミリーの、狼犬に警察犬ファミリーの縄張りを襲撃するように命じてました! 』
 脳裏に蘇(よみがえ)るチワワの言葉が、ドーベルマンの焦燥感を煽(あお)った。

 頼む……頼む……。

 ドーベルマンは心でハナの無事を祈りながら、走力を増した。
「サブボス! あれを見てください!」
「京王百貨店」まで百メートルの地点で、二番目を走る副隊長が肉球で前方を指した。
 五十メートル向こう側から、犬の群れが走ってきた。
 ドーベルマンは眼を凝らした。
 犬の群れは狼犬で、五十頭近くいた。
 先頭を走っているのは、リーダーの白狼犬だった。
「サブボス! 闘犬ファミリーの野郎どもですよ! ぶっ潰しましょう!」
 副隊長の言葉に、隊犬達が熱(いき)り立った。
「待て! 食料を強奪にきたはずなのに、奴(やつ)らは口ぶらだ!」
 ドーベルマンが、戦闘態勢に入る隊犬を制した。
 五十頭近い狼犬の群れは、なにもくわえていなかった。
 四十メートル、三十メートル、二十メートル……狼犬の群れとの距離がどんどん近づいた。
「止まれ! 俺が合図するまで襲いかかるな!」
 ドーベルマンの命令に、立ち止まった隊犬達が一斉に吠(ほ)えた。
 十メートルの距離で、狼犬の群れも立ち止まった。
「食料を強奪しにきたんじゃないのか?」
 ドーベルマンが、白狼犬に訊ねた。
「俺に構っている暇があったら、早く行ったほうがいい」
 白狼犬が、冷静な声音で言った。
「どういう意味だ?」
 ドーベルマンは嫌な予感に襲われた。
「雌の警察犬が乗り込んできた」

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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