よみもの・連載

犬義なき闘い

第8回 警察犬ファミリー

新堂冬樹Fuyuki Shindou

 ボスのシェパードが率いる五十頭のシェパード隊と特攻隊長のロットワイラーが率いる五十頭のロットワイラー隊は、「小田急(おだきゅう)百貨店」と「新宿西口ハルク」に向かっていた。
「ドーベルマン隊の隊犬は何頭だ?」
 シェパードが並走するロットワイラーに訊ねた。
「たしか百頭で出動したはずだ」
「もう少し、隊犬をつけるべきだったかな」
 シェパードは呟(つぶや)いた。
 ドーベルマン隊の実力の高さはわかっていた。
 統率力、機動力、攻撃力の三拍子が揃っており、シェパードが最も信頼を置く隊だ。
 個犬の攻撃力だけならロットワイラーのほうが上回っているが、隊として闘った場合には戦術面に優れ機転の利くドーベルマン隊の総合点のほうが高い。
 だが、相手は闘犬ファミリーの狼犬隊だ。
 狼の血が濃く入っている狼犬はドーベルマンと同じく統率力と機動力に優れ、攻撃力では勝っている。
 ドーベルマン隊の数は百頭なので大丈夫だとは思うが、シェパードは胸騒ぎに襲われていた。
「心配性だな。狼犬の野郎どもは登録犬数が少ねえから、隊犬はリーダーの白狼犬を含めても五、六十頭ってところだ。ドーベルマン隊は倍近い数だし、やられるわけねえって」
 ロットワイラーが笑い飛ばした。
「そうだな。サブボスがやられるわけがないな。俺も年だな」
 シェパードは自らに言い聞かせ苦笑いした。
「なに言ってんだ。三歳って言えば、一番の雄盛りじゃねえか」
 ロットワイラーが、ふたたび笑い飛ばした。
 二十メートル先に「小田急百貨店」の建物が見えた。
「俺は『小田急百貨店』を偵察するから、お前は『新宿西口ハルク』に向かって……」
「シェパードボス! た、た、大変です!」
 ロットワイラーに指示を出していたシェパードの声を、誰かが遮った。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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