よみもの・連載

犬義なき闘い

第9回 警察犬ファミリー

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「ハナ……どうして……こんな姿に……」
 シェパードは、ハナの生首に震える声で語りかけた。
「嘘(うそ)だろ……こんなこと、あるわけがねえ……夢だ……夢に決まってる!」
 ロットワイラーが涙声で叫んだ。
「……誰の仕業だ?」
 シェパードは掠(かす)れた声で、チワワに訊(たず)ねた。
「ピ、ピ、ピットブル特攻隊長です」
 細い四肢をガクガクと震わせ、チワワが答えた。
「はぁ!? どうしてピットブルがいるんだよ!? 『京王百貨店』には、狼犬(おおかみいぬ)隊が乗り込んだんじゃねえのか!?」
 ロットワイラーが後肢(あし)で立ち、チワワの胸倉を掴(つか)んで持ち上げた。
「白狼犬(はくろうけん)と……ハスキー警備犬の隊長が……幼馴染(おさななじ)み……らしくて……裏切らないか疑ったピットブル特攻隊長が……乗り込んできた……よう……です……」
 チワワが切れ切れの声で状況を説明した。
「ピットブルはハナちゃんになにをした!? おお!? なにをしたって訊(き)いてるんだよ!?」
 ロットワイラーが胸倉を掴む右前肢を前後に動かした。
「ぐ、ぐるじい……は、放じて……ぐだざい……」
 チワワが宙で後肢をバタつかせながら懇願した。
「先に言え! ハナちゃんはなにをされた!」
「レレレ……レイ……プです……」
 ロットワイラーに詰め寄られたチワワが、気息奄々(きそくえんえん)の体で言った。
「ハナちゃんをレイプだと! ふざけやがって……ぶっ殺してやる! 」
 ロットワイラーが、チワワの喉を掴む肉球に力を込めた。
「ぼぼ……僕が……レイプ……した……わけ……じゃ……ありません……」
 もともと飛び出し気味のチワワの眼球がさらに迫(せ)り出した。
「放してやれ」
 シェパードがロットワイラーに命じた。
「この野郎は、ハナちゃんがレイプされてるのを黙って見てたんだぞ!」
 ロットワイラーが、血走った眼を見開いた。
「体重一キロ台のチビになにができる!? いまはチビをいたぶってる場合じゃないだろうが! 」
 シェパードが一喝すると、ロットワイラーが舌を鳴らしてチワワを地面に投げ捨てた。
 チワワがすっくと起き上がり、ロットワイラーの右後肢にマーキングをすると素早く逃げた。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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