第10回 闘犬ファミリー
新堂冬樹Fuyuki Shindou
巨大犬ファミリーの食料庫である「三越デパート」に向かって走る大型犬軍団のマスチフ隊……百頭の隊犬を率いるマスチフ隊長は、ひと際大きく厳(いか)つい体をしていた。
黒、灰色、茶の斑(ぶち)の被毛、大きく弛(たる)んだ黒い口吻(こうふん)、皺々(しわしわ)の額──体高八十五センチ、体重百十キロのマスチフ隊長は、体高八十センチ、体重百キロの土佐犬組長よりも一回り大きく、パワーだけなら闘犬ファミリー一を誇っていた。
「よかか! よく聞け! このデパートは巨大犬ファミリーのアイリッシュウルフハウンドが仕切っとる。ウルフハウンドは世界最大の犬種ばい。体高は平均九十センチ超えで、俺らマスチフよりもでかか。奴(やつ)らの隊長の体高は百十センチもあるばい。ばってん、恐れることはなか! 背はのっぽでも体重は七十キロくらいの痩せっぽちたい! パワーじゃ、俺らのほうが圧倒的に強かけん! 奴らの祖先は狼(おおかみ)狩りの猟犬ばってん、俺らの祖先はライオンと闘っとったけん、恐れるこつはなか! 」
マスチフ隊長は先頭を走りながら、後に続く隊犬達を鼓舞した。
隊犬達の地鳴りのような吠(ほ)え声が、西新宿の街に轟(とどろ)いた。
マスチフ隊長にとっては、絶対に負けを許されない闘いだった。
白狼犬が率いる狼犬隊は、警察犬ファミリーの食料庫である「京王百貨店」の襲撃を命じられていた。
マスチフ隊長と白狼犬(はくろうけん)は闘犬ファミリーの幹部であり、ナンバー4として並び立つライバル関係にあった。
土佐犬組長は、マスチフ隊長と白狼犬にそれぞれ使命を与えてより大きな戦果を挙げたほうを昇格させるつもりに違いなかった。
より大きな戦果──土佐犬組長の野望は、闘犬ファミリーによる新宿統一だ。
人間が立ち去ったあとの新宿は、闘犬ファミリー、警察犬ファミリー、巨大犬ファミリーが領地を分け合っていた。
土佐犬組長の野望を達成するには、警察犬ファミリーと巨大犬ファミリーを壊滅させる必要があった。
三十メートル前方──「三越デパート」が見えてきた。
「一頭たりとも、逃がすんじゃなかぞ! 骨一本残さんで、喰(く)らい尽くしてやれ! 突撃するばい!」
マスチフ隊長の号令とともに、五十頭のマスチフ隊が「三越デパート」の正面玄関に突入した。
- プロフィール
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新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。
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- ★おまけ
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