よみもの・連載

犬義なき闘い

第12回 愛玩犬ファミリー

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「あれは、シェパードじゃないぶふ?」
「ロットワイラーもいるぺちゃ!」
「三越デパート」の前に集まる百頭を超える犬の集団を見て、歩道でビーフジャーキーを齧(かじ)っていたフレンチブルドッグとパグが驚いた顔で言った。
「警察犬ファミリーの縄張りは、西口じゃないぶふ? どうして東口にいるぶふ?」
 フレブルがパグに訊(たず)ねた。
「僕が知るわけないぺちゃ。あ! 白狼犬もいるぺちゃ!」
 パグが白い狼犬を肉球で指しながら、大声を張り上げた。
「え!? 白狼犬は闘犬ファミリーぶふ!? どうして、警察犬ファミリーと一緒にいるぶふ!?」
 フレブルが怪訝(けげん)な顔で言った。
「それより、警察犬ファミリーと闘犬ファミリーがデパートの前でなにを話し合ってるぶふ?」
 フレブルが、前肢組みをして首を捻った。
「そんなに知りたいなら、僕が教えてやるよ」
 極太のガムボーンを葉巻のように咥(くわ)えながら、トイプードルとミニチュアダックスを従えたチワワが現れた。
 頭部には、「ドン・キホーテ」のペットコーナーに転がっていた犬用の麦藁(むぎわら)帽子を斜めに被っていた。
「なんだ? チワワぶふ? なにしにきたぶふ?」
 フレブルが訝(いぶか)しげに言った。
「おいっ、フレブル! 愛玩犬ファミリーのボスに向かって、その口の利きかたはなんだ!」
 トイプーが、フレブルに怒声を浴びせた。
「俺らは鼻ぺちゃファミリーぶふ。チワワは、俺らのボスじゃないぶふ」
「そうぺちゃ。チワワは、僕らのボスじゃないぺちゃ」
 フレブルとパグが、取りつく島もなく言った。
「ボスのことを呼び捨てにするな! お前らは元々、愛玩犬(あいがんけん)ファミリーでボスの子分だっただろう! 」
 トイプーに続き、ミニチュアダックスもフレブルとパグに怒声を浴びせた。
「その愛玩犬ファミリーを守れなくて、闘犬ファミリーに縄張りを追い出されたのはどこのボスぶふ?」
「闘犬ファミリーが攻め込んできたときに、僕ら子分を残して真っ先に逃げたのはどこのボスぺちゃ?」
 トイプーとミニチュアダックスが、チワワを見ながら皮肉っぽい口調で言った。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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