よみもの・連載

犬義なき闘い

第13回 闘犬ファミリー

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「なんやぬしら? 世界一背の高い犬も、こぎゃんなったら形無しばいね」
「三越デパート」の一階フロア――血の海に浮くウルフハウンド隊長の頭部を前肢で踏みつけながら、マスチフ隊長が吐き捨てた。
 ウルフハウンド隊の五十頭の隊犬は、全滅していた。
 対するマスチフ隊で、寿命を失ったのは僅か三頭だった。
「狼(おおかみ)狩りの巨大犬と恐れられていたのに、たいしたことない奴らでしたね」
 マスチフ副隊長が、屍(しかばね)の山を見渡しながら嘲笑(あざわら)った。
「あたりまえたい! こやつらの祖先が狼狩りの猟犬なら、俺らの祖先はライオン相手の闘犬たい! 俺らは世界最強のマスチフ軍団ばい!」
「世界最強!? っていうことは、隊長はピットブル特攻隊長より強いっていうことですか!?」
 マスチフ副隊長が、驚きの表情で訊ねてきた。
「ピットブル? 位が上だから立ててやっとるばってん、俺が本気になったらあんなチビは相手じゃなか!」
 マスチフ隊長が豪快に笑った。
「さすが隊長! じゃあ、土佐犬組長とはどうですか!?」
 好奇に瞳を輝かせ、マスチフ副隊長が質問を重ねた。
「土佐犬!? あやつらは、俺らといろんな犬を掛け合わせた雑種たい!  雑種に俺らマスチフが負けるわけなかばい!」
 ふたたび、マスチフ隊長が豪快に笑った。
「闘犬ファミリーのボスは、隊長がやるべきですよ!」
「そうですよ! 隊長こそボスに相応(ふさわ)しい戦闘力と風格がありますよ!」
「世界中の犬で一番強い隊長が、闘犬ファミリーのボスです!」
 隊犬達が口々に、マスチフ隊長を持ち上げた。
「そうたいそうたい、その通りたい! 俺こそが、闘犬ファミリーのボスに相応しいってことば証明してやるけん! ぬしら、これから巨大犬ファミリーのアジトに殴り込むばい!」
「えっ? アジト襲撃はピットブル隊が命じられて……」
「だけん先に乗り込んで、俺らが巨大犬ファミリーばぶっ潰して、マスチフ隊が最強ってことば証明するとたい! 行くばい!」
 マスチフ隊長は隊犬達に命じ、フロアから飛び出した。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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