よみもの・連載

犬義なき闘い

第14回 警察犬ファミリー

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「おいおい、いつまで待つつもりだ!? さっさとデパートに突っ込んで、マスチフ野郎を皆殺しにしてやろうじゃねえか!」
 ロットワイラーが、焦(じ)れたようにシェパードを煽った。
「待てと命じたはずだ」
 シェパードが無感情な眼で、デパートの正面玄関を見据えつつ言った。
「もういい! だったら俺の隊だけで……」
 複数の肢音が、ロットワイラーの言葉を遮った。
 シェパードは眼を凝らした。
 四十七頭のマスチフは、想像以上に大きかった。
 ロットワイラーも相当にガッチリとした体躯(たいく)をしていたが、マスチフ達と比べれば中型犬に見えてしまう。
 とくに先頭に立つマスチフ隊長の体格は圧倒的だった。
 体重百キロの土佐犬組長さえも、体格だけならマスチフ隊長に敵(かな)わない。
「おいっ、ぬしら、ポリ犬どもが東口になにしにきたとや!?」
 マスチフ隊長が、シェパードとロットワイラーを交互に睨みつけた。
「決まってんだろうが!? てめえらをぶっ潰しにきたんだよ!」
 ロットワイラーが、犬歯を剥いた。
「おっ!? ぬしゃ白狼犬じゃなかや!? ぬしがなんでポリ犬どもと……まさか、寝返ったとや!?」
 マスチフ隊長の血相が変わった。
「ああ。土佐犬組長やピットブル特攻隊長のやりかたについていけなくてな」
 白狼犬が無表情に言った。
「そん気持ちは、わかるばい。ばってん、不満があるならポリ犬に寝返らんと実力で立ち向かわんや!」
 マスチフ隊長が、白狼犬に怒声を浴びせた。
「おめえも、いまウチに入るなら寿命を助けてやってもいいぜ?」
 ロットワイラーが、マスチフ隊長にたいして挑発的に言った。
「ぬしゃ、俺ば馬鹿にしとっとか!? タイマンで勝負する度胸があるなら、受けて立つばい! 度胸がなかなら、シェパードの背後に隠れとかんね!」
 マスチフ隊長が、挑発を返しながら歩み出てきた。
「望むところだ! おいっ、いまからマスチフ野郎をぶっ殺すから、てめえらは肢出しするんじゃねえぞ!」
 ロットワイラーは警察犬ファミリーの面々に言うと、マスチフ隊長に飛びかかった。
「ぬしらも、肢出しするんじゃなかばい!」
 マスチフ隊長もロットワイラーに飛びかかった。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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