よみもの・連載

犬義なき闘い

第16回 警察犬ファミリー

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「三越デパート」前――血の海と化したアスファルトに浮くマスチフ隊の四十七頭の屍(しかばね)を、シェパードは返り血に濡(ぬ)れた顔で見渡した。
「なかなか、手強い犬どもだったぜ」
 ロットワイラーが、激しくバンティングしながら言った。
 ロットワイラーの言う通り、さすがは先祖が古代ローマでライオンと闘っていただけのことはあり、マスチフ隊の戦闘力は相当なものだった。
 シェパード隊、ロットワイラー隊、狼犬隊は合わせて十頭が寿命を奪われた。
 被害はマスチフ隊の半数以下で圧勝に見えるが、シェパード達が三倍の数だったことを考えると素直に喜べない。
 もし、マスチフ隊と同じ頭数だったらかなりの苦戦を強いられたことだろう。
「次は闘犬ファミリーのアジトだ」
 肢を踏み出そうとしたシェパードの前に、返り血で白い被毛を赤く染めた白狼犬(はくろうけん)が立ちはだかった。
「邪魔だ」
 シェパードは押し殺した声で言った。
「日を改めたほうがいい。戦闘力が落ちている状態で、土佐犬組長やピットブル特攻隊長と闘うのは無謀だ」
「やけに弱気じゃねえか? 疲れてるくらいが、ハンデになってちょうどいいだろ?」
 ロットワイラーが、不敵に言い放った。
「奴らを甘く見たらだめだ。こっちが万全でも、勝てる保証はない相手だ」
 白狼犬が釘(くぎ)を刺してきた。
「お前は、奴らを過大評価し過ぎだっつーの!」
 ロットワイラーが吐き捨てた。
「サブボスの言う通りだ。このままの勢いで、闘犬ファミリーを殲滅(せんめつ)する」
 シェパードは淡々とした口調で言った。
 シェパードが肢を踏み出そうとしたとき、地鳴りのような肢音が聞こえた。
 およそ三十メートル向こう側から走ってくる超大型犬の大群――先頭を走るのは巨大犬ファミリーのボスであるセントバーナードとサブボスのグレートデンだった。
 二頭の背後には、二百頭を超える隊犬が続いていた。
「ようやくおでましか」
 ロットワイラーが笑いながら言った。
「止まれー!」

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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