よみもの・連載

犬義なき闘い

第17回 闘犬ファミリー

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「頭が高い頭が高い頭が高ーいっ! 闘犬ファミリーの土佐(とさ)犬組長のお通りだぞー!」
 歌舞伎町(かぶきちょう)の区役所通り――土佐犬組長とピットブル特攻隊長を先導するチワワが、脳天から突き抜けるようなヒステリックな声で住犬達に命じた。
 土佐犬一行に気づいた住犬達は、慌てて通りに飛び出してくるとヘソ天の姿勢で出迎えた。
 土佐犬組長とピットブル特攻隊長の背後からは、土佐犬隊とピットブル隊がそれぞれ五十頭ずつ続いていた。
 闘犬ファミリーのナンバー1と2が揃(そろ)って縄張りを見回ることは滅多にないので、街の空気はピリついていた。
「おいっ、おんし」
 土佐犬組長が、居酒屋の店舗の前でヘソ天していた雄の黒い雑種犬に声をかけた。黒雑種犬はまさか自分が声をかけられたとは思わずに、ヘソ天を続けていた。 
「おいっ、黒いの! 親分様が声をかけてくださってるんだぞ!」
 チワワが黒雑種犬の腹を肉球で叩(たた)いた。
「す、すみません!」
 黒雑種犬が、慌てて起き上がった。
「おんしの親の犬種は、なんだがや?」
 土佐犬組長が、ドスの利いた声で黒雑種犬に訊(たず)ねた。
「お、お、親も雑種です」
 黒雑種犬が震える声で言った。
「おんし、立ち耳で、尖(とが)った口吻(こうふん)で、わしの大嫌いなシェパードに似とるのう? おんし、もしかして、わしの大嫌いなシェパードの血が入っとるがや?」
 土佐犬組長が、黒雑種犬を睨(にら)みつけた。
「い、いえ……そ、そんな話は聞いたことありません!」
 黒雑種犬が慌てて否定した。
「へっへっへ……親分様、たしかにこいつは立ち耳ですが、とてもシェパードには見えませんぜ」
 チワワが言った。
「誰がおんしに訊(き)いた?」
「ひっ……」
 土佐犬組長に凄(すご)まれたチワワが、息を呑(の)み表情を失った。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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