よみもの・連載

犬義なき闘い

第18回 警察犬ファミリー

新堂冬樹Fuyuki Shindou

 新宿三丁目の大型スーパーだった建物の地下二階――ドアの両脇に立って睨みを利かせている二頭の長毛の巨大犬……ニューファンドランドが、シェパードを認めると歩み寄ってきた。
 二頭とも百キロはありそうな巨体で、熊のようだった。
「警察犬ファミリーのシェパードさんですね?」
 一頭が訊ねてきた。
「ああ。ウチのサブボスと特攻隊長が先にきていると思うが?」
「はい。いらっしゃってます。ところで、その血は?」
 ニューファンドランドが、シェパードの赤く染まった被毛に視線を這わせた。
 この返り血は、シェパードが悪魔になった証(あかし)だ。
「お前らに、言う必要があるのか?」
 シェパードは押し殺した声で言うと、ニューファンドランドを見据えた。
「失礼しました。お入りください」
 ニューファンドランドがドアを開けた。日用雑貨と衣類が販売されていた広大なフロアに、五頭の犬がクッションにお座りしていた。
 五頭の前には、水や山羊(やぎ)ミルクの入ったブリキボウルが置かれていた。
 巨大犬ファミリーのボスのセントバーナードの左手にロットワイラーと白狼犬(はくろうけん)、右手にサブボスのグレートデンと幹部犬のグレートピレニーズが座っていた。
「おう、遅かったじゃねえか。待ってたぜ」
 ロットワイラーがシェパードを認めて言った。
「とりあえず、そこに座ってくれ。水にするか? 山羊ミルクにするか?」
 セントバーナードが自分の正面のクッションを前肢で指しながらシェパードに訊ねた。
「いらない」
 シェパードがにべもなく言った。 
「そうか。なら、早速本題に入ろう。君がくるまで、とりあえずみなの意見を聞いてみた。ここにいる五頭の意見は、闘犬ファミリーを壊滅させることで一致した。ただし、壊滅の方法では意見が分かれた。私とグレートピレニーズと白狼犬は土佐犬組長とピットブル特攻隊長を二手に分かれて攻撃するという作戦、グレートデンとロットワイラーは二手に分かれずに一気に総攻撃するという作戦だ。シェパード。君の意見は?」
 セントバーナードが、クッションにお座りするシェパードに訊ねた。
「どっちでもいいが、土佐犬組長もピットブル特攻隊長も俺が殺す」
 シェパードは無表情に言った。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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