よみもの・連載

犬義なき闘い

第19回 警察犬ファミリー

新堂冬樹Fuyuki Shindou

 西新宿(にししんじゅく)のカフェ「ロワール」。
 白のフレンチアンティークカフェテーブルにアンティークチェア、白とグレーを基調としたアンティークタイル……人間がいた時代は、パリをイメージしたフレンチレトロな作りが受けていつも満席だった。
 埃(ほこり)の積もったベンチソファに座ったシェパードは、思案に耽(ふけ)っていた。

 ――ここに二百グラムの牛肉を五切れ置いておきます。馬鹿ヅラ下げて入ってきたピットブル隊を袋の鼠(ねずみ)にして、一斉に襲撃するってわけです。どうです? なかなかいい作戦でしょう?

 歌舞伎町(かぶきちょう)の雑居ビル。地下フロアのライブハウスで、チワワが得意げに鼻を膨らませた。
 フロアは小型犬なら千頭、大型犬なら三百頭は入りそうなスペースだった。

 ――こっちは狭いから、ピットブル隊を誘(おび)き寄せたほうがよさそうです。奴(やつ)らは中型犬でちっちゃいので五百頭は入りますから。
 ――てめえは超小型犬のどチビのくせして、中型犬をちっちぇなんて言うんじゃねえぞ! これでも喰(く)らえ!

 ロットワイラーが、チワワの丸い頭部を分厚い肉球で叩(たた)いた。

 ――君達は、どっちを襲撃する?

 フロアを見渡しながら、セントバーナードがシェパードとロットワイラーに訊(たず)ねてきた。

 ――俺は、ドーベルマンとハナちゃんの寿命を奪ったピットブルだ。だが、お前らで土佐(とさ)犬隊を相手にできるか?

 シェパードは、セントバーナードに訊ね返した。

 ――おい、ウチのファミリーを馬鹿にしてるのか!?

 サブボスのグレートデンが、血相を変えてシェパードに食ってかかった。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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