よみもの・連載

犬義なき闘い

第21回 警察犬ファミリー(続きから)

新堂冬樹Fuyuki Shindou

     ☆

「はぁ!? てめえっ、なに勝手なことを言ってやがる! こいつはいまウチの特攻隊長だ! 帰すわきゃねえだろうが!」
 ロットワイラーがデスクの上からリブロースの骨を床に叩(たた)きつけ、秋田犬若頭に怒声を浴びせた。
「無理を承知で頼んでいる。白狼犬(はくろうけん)がなぜウチのファミリーを飛び出したのかも、理解しているつもりだ。その上で、あんたに頼んでいる。この通りだ」
 秋田犬若頭が、シェパードに頭部を垂れた。
「おいっ、無視するんじゃねえ! 俺の言ってることを……」
「頭を上げろ」
 ロットワイラーを遮り、シェパードは秋田犬若頭に命じた。
「なぜ、お前が敵陣まで乗り込んでそこまでする? 白狼犬を取り戻したいなら、力ずくで奪い返すのがお前らのやりかただろう?」
 シェパードは訊(たず)ねた。
「そうならないために、こうして頼みにきたんだ。このままだと、あんたが言ってる通りに土佐(とさ)犬組長とピットブル特攻隊長が隊犬を引き連れ襲撃してくるだろう。俺は血の雨が降ることは望まない。だから、なにも言わずに白狼犬を渡してくれないか」
 秋田犬若頭がシェパードに懇願した。
「てめえがそうでも、土佐犬野郎とピットブル野郎が納得するわけねえだろうが!」
 ロットワイラーが、秋田犬若頭に食ってかかった。
「それは大丈夫だ。俺が連れ戻せば抗争にはしないし白狼犬の謀反も不問にすると、土佐犬組長が約束した」
「馬鹿かっ、てめえは! 土佐犬野郎が、そんな約束を守ると信じてんのか! こいつを連れ戻したら、寿命を奪うに決まってるだろうが!」
 ロットワイラーが唾液を飛ばしながら、秋田犬若頭を怒鳴りつけた。
「それはわかってる。土佐犬組長の性格は、あんたより知っているからな。だが、いったん連れ戻さなければ、闘犬ファミリーが警察犬ファミリーを襲撃する。とりあえず、命令に従って白狼犬に詫(わ)びを入れさせる。そして、狼(おおかみ)犬隊をほかの区に逃がす。土佐犬組長とピットブル特攻隊長は、白狼犬を血眼になって追うだろう。しかし、警察犬ファミリーを抜けているから、抗争を仕掛ける大義名分がなくなる。無駄な血を流さないための苦肉の策だ。協力してくれないか? 頼む」
 秋田犬若頭が、ふたたびシェパードに頭を下げた。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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