よみもの・連載

犬義なき闘い

第22回 闘犬ファミリー

新堂冬樹Fuyuki Shindou

 大久保(おおくぼ)通りを、先頭の土佐犬組長に続き秋田犬若頭が歩いていた。二頭の後ろには、土佐犬隊、秋田犬隊の選ばれし百頭の精鋭犬が続いていた。
「どこに向かっているんですか?」
 秋田犬若頭が訊ねた。
「あのビルじゃき」
 ビーフジャーキーをくちゃくちゃと嚙(か)みながら、土佐犬組長が十メートル先に聳(そび)える「東京都健康プラザハイジア」にひしゃげた顔を向けた。
「プラザハイジア」は十八階建てのビルで、人間が住んでいたときは都民の健康づくりの一環として、病院、スポーツ施設、カルチャーセンター、オフィス、飲食店を集めた複合型施設として繁盛していた。
「あのビルに、誰かいるんですか?」
 秋田犬若頭は、胸騒ぎを覚えた。
 秋田犬若頭が、警察犬ファミリーに白狼犬の引き渡しを断られた報告を土佐犬組長とピットブル特攻隊長にしたのが昨日のことだ。
 もしかしたら、白狼犬が捕らわれてしまったのか?
 ピットブル隊がいないのが、秋田犬若頭の不安に拍車をかけた。
「まあ、行けばわかるぜよ」
 土佐犬組長が意味ありげに笑い、「プラザハイジア」のエントランスに肢(あし)を踏み入れた。
 広々としたエントランスには、五十頭のピットブル隊の隊犬が横並びに整列していた。
 列の中央にいたピットブル特攻隊長が、チワワをくわえて土佐犬組長に駆け寄ってきた。
「お疲れ様です!」
 ピットブル特攻隊長がチワワを床に落とし、土佐犬組長に頭部を下げた。
「あっちのほうは、うまくいったがや?」
 土佐犬組長が、ピットブル特攻隊長に訊ねた。
「もちろんですわ! おいっ、ワレら! 組長にお見せせんかい!」
 ピットブル特攻隊長が振り返り命じると、隊犬達が左右に離れた。大型犬用のケージが現れ、中には雌のシェパードが怯(おび)えた顔でお座りしていた。
「あの雌は誰ですか?」
 嫌な予感に導かれるように、秋田犬若頭は土佐犬組長に訊ねた。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

Back number