よみもの・連載

犬義なき闘い

第23回 警察犬ファミリー

新堂冬樹Fuyuki Shindou

 歌舞伎町(かぶきちょう)のさくら通りを並び歩くシェパードとロットワイラーに、住犬達の視線が集まった。
 西新宿(にししんじゅく)を縄張りにしている警察犬ファミリーのナンバー1と2が、闘犬ファミリーの縄張りを歩いているのだから無理もない。
「このヒリヒリとした感じ、たまんねえな」
 ロットワイラーが、瞳を輝かせた。
 正面から歩いてきた四頭の若い雑種の半グレ犬が、シェパードとロットワイラーに気づくと踵(きびす)を返して逃げ出した。
「あいつらも、てめえの実力をよくわかってるじゃねえか」
 ロットワイラーが上機嫌に言った。
「でもよ、二頭で歌舞伎町を流そうなんて、どういう風の吹き回しだよ。いままでは、奴らを刺激するようなことを避けていたのによ」
 ロットワイラーが、怪訝な顔で訊ねてきた。
「ライブハウスの下見だ」
 シェパードは短く言った。
「ライブハウス? この前、どチビと下見したじゃねえか」
「あれは中だ。外を下見する」
「外!? なんで外なんか下見すんだよ?」
 ロットワイラーの質問に答えず、シェパードは駆け足になった。
 隊犬を連れてこなかったのは目立たないためで、ライブハウスの外を下見するのはチワワを信用していないからだ。
「おいっ、なんで無視すんだよ!」
 ロットワイラーが気色ばみ、シェパードを追った。

     ☆

 さくら通りのライブハウスの入り口――シェパードは、地下へ続く階段を見下ろしていた。
「さっきから、なに見てんだよ?」
 ロットワイラーが訊ねてきた。
「階段の幅が狭過ぎるな」
 シェパードは呟(つぶや)いた。
「あ? なんだって?」
「この狭さだと、中型犬以上は二頭までしか通れない」

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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