よみもの・連載

犬義なき闘い

第25回 闘犬ファミリー

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「あ!? こらワレ! いまなんて言うたんや!? もういっぺん、言うてみいや!」
 大久保(おおくぼ)の「健康プラザハイジア」のエントランスフロアに、ピットブル特攻隊長の怒声が響き渡った。
 ピットブル特攻隊長の背後にいる隊犬達も、険しい表情で秋田犬若頭を睨(にら)みつけていた。
「ここにはこない。その雌を好きにすればいい」
 秋田犬若頭は、シェパードボスの意思を伝えた。
「あのポリ犬野郎っ、どないなつもりなんや!」
 ピットブル特攻隊長は、近くにいた隊犬を後肢で蹴りつけた。
「ほう、恋犬を見殺しにしたちゅうがや? 意外な展開じゃき。おんし、聞いたがや? おんしは、彼犬に見捨てられたぜよ」
 土佐犬組長は、ケージの中のマリーに加虐的な笑みを浮かべながら言った。
「彼は、そんな犬じゃないわ!」
 マリーが叫んだ。
「そんな犬じゃないなら、おんしの寿命がかかっとるちゅうのに、なんで助けにこんがや〜? お? おんしが腹を咬み裂かれて内臓引き摺(ず)り出されるっちゅうのに、なんで助けにこんがや〜? お? お? 頭蓋骨割られて脳味噌を喰(く)われるっちゅうのに、なんで助けにこんがや〜?」
 土佐犬組長がケージに顔を近づけ、歌うように言った。
「か、彼は警察犬ファミリーのボスよ! きっと、助けにきて……」
「やかましいボケ! ワレを殺して、頭部をポリ犬のアジトに放り込んできたるわい! 組長! はよう、この雌を殺しましょうや!」
 ピットブル特攻隊長が白泡を吹きながら、土佐犬組長に訴えた。
「その必要はない。問題は雌の寿命を奪う奪わないではなく、シェパードボスをどうするかだ。勝手なことをするな」
 秋田犬若頭は、ピットブル特攻隊長に命じた。
「せやから、ポリ犬野郎の雌を殺すんやないか! ボケ! 俺らに逆らったらどうなるかを、思い知らせてやるんや!」
 ピットブル特攻隊長が犬歯を剥(む)いた。
「だったら、警察犬ファミリーを襲撃するのが先決だ。悪戯(いたずら)に雌に時間をかけている間に、逆に襲撃されたらどうする? 恋犬が囚(とら)われていることを知っているシェパードボスが、大人しくしているとは思えないからな」
「ワレは寝惚(ねぼ)けたことばかり……」
「若頭の言う通りぜよ」

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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