よみもの・連載

犬義なき闘い

第28回 闘犬ファミリー

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「あのポリ犬、どうしてこないんじゃ!」
「健康プラザハイジア」のエントランスに鳴り響く土佐犬組長の怒声に、土佐犬隊とピットブルテリア隊の隊犬達に緊張が走った。
「白狼犬の咬(か)みちぎられた頭部を見ても乗り込んでこんちゅうのは、どういうことがや! ポリ犬のボスは、正義感の塊やないんか! おんし、そう言っとったがや!」
 土佐犬組長は、鬼の形相でピットブル特攻隊長を怒鳴りつけた。
 待てど暮らせど現れないシェパードボスに、土佐犬組長のフラストレーションは鬱積していた。
「嘘(うそ)やおまへん! あいつは仲間や恋犬を見捨てるような雄やありませんわ! 必ず、奴は現れますわ!」
 ピットブル特攻隊長が懸命に訴えた。
「だったら、白狼犬の頭部届けて十時間以上経(た)っとるっちゅうに、なんでこんがや!」
 土佐犬組長が、いら立ちをピットブル特攻隊長にぶつけた。
「あっちがこんなら、こっちから乗り込んじゃるき! おい! おんし、残りの隊犬に集合をかけてくるぜよ!」
 土佐犬組長は、ピットブル特攻隊長に命じた。
「親分、明日まで待ちまへんか! 明日まで待って乗り込んでこんかったら、シェパード雌を殺してから、ポリ犬ファミリーのアジトに乗り込む言うのはどうでっか!?」
 ピットブル特攻隊長が、土佐犬組長に伺いを立てた。
「なにぬるいこと言うとるぜよ! いつものおんしなら、真っ先に飛び出してポリ犬のアジトにカチ込んどるじゃろうが!」
 土佐犬組長は、ピットブル特攻隊長に犬歯を剥いた。
 土佐犬組長にとって、警察犬ファミリーは目の上のたんこぶだった。
 巨大犬ファミリーのセントバーナードボスやグレートデンサブボスのことは歯牙にもかけていなかった。彼らは身体(からだ)が大きくパワーはあるが、闘犬ではないので力を持て余し闘う術(すべ)を知らない。全面抗争になれば、恐れるに足りない相手だ。
 だが、警察犬ファミリーは違う。
 純粋な力比べでは負けないが、彼らには警察犬学校と軍用犬学校で体得した戦闘スキルがある。もちろん、戦闘力で劣っているとは思っていない。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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