よみもの・連載

犬義なき闘い

第30回 警察犬ファミリー

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「目立たないように待ってろ」
 シェパードボスは漆黒の被毛のシェパード隊長に命じ、二丁目の雑居ビルの地下――ゲイバーだった店舗に肢を踏み入れた。
「あ、あなたは、警察犬ファミリーのシェ、シェパードボス!」
「シェパードボスがこんなところにくるわけ……えーっ!」
 シェパードボスを認めたトイプードルとミニチュアダックスが驚愕(きょうがく)の声を張り上げた。
「あ、シェパちゃん、どうしたの?」
 ボックスソファにお座りしていたチワワが、馴(な)れ馴れしく声をかけてきた。
「シェパちゃん!?」
 トイプードルとミニチュアダックスが、素頓狂な声でハモった。
「僕とシェパちゃんは三年来の友犬だからね。シェパちゃん、こっちに座りなよ!」
 相変わらずチワワが、馴れ馴れしく前肢で肢招きした。
「凄(すご)いですね! ボスは、シェパードボスと友犬だったんですか!」
 トイプードルが尊敬の眼差(まなざ)しで、チワワを見た。
「やっぱり、ボスの犬脈は半端ないですね!」
 ミニチュアダックスが感嘆の声を上げた。
「お前に馴れ馴れしく呼ばれる間柄じゃない」
 シェパードボスはチワワの正面のソファに座りながら、冷え冷えとした声で言った。
「またまた〜。どうしてそんな他犬行儀なことを……」
「お前のホラにつき合っている暇はない。こいつらを外に出せ」
 シェパードボスは、チワワを遮り命じた。
「ホラなんて、シェパちゃ……いや、シェパードボスも犬が悪いな〜。お前ら、真に受けるんじゃないぞ。これは、シェパードボス流のツンデレジョークなんだから……」
「まだホラを続ける気か? 俺を怒らせるな」
 シェパードボスは、チワワを睨みつけた。
「わ、わ、わかったよ。もう、今日はノリが悪いな〜。ま、とにかくお前ら、ボス同士の話があるから席を外してくれ」
 チワワが平静を装い言うと、二頭の背中を見送った。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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