よみもの・連載

犬義なき闘い

第31回 愛玩犬ファミリー

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「シェパードボスとなにを話していたんですか!?」
「作戦会議ですか!?」
 シェパードボスと入れ替わるようにフロアに戻ってきたトイプードルとミニチュアダックスが矢継ぎ早に訊ねてきた。
「君達は知らなくてもいい。それより、犬員の手配はどうなった?」
 ソファにお座りしビーフジャーキーを嚙(か)みながら、チワワは訊ねた。
 今日は朝から忙しく、食事をする暇がなかった。
「ポメラニアン、ヨーキー(ヨークシャーテリア)、マルチーズ、シーズーの隊長にはそれぞれ声をかけました。みんな、ボスが愛玩犬ファミリーを復活させるなら喜んで馳(は)せ参じると言ってました。今夜の十時までに、二百頭は集まります!」
 トイプードルが声を弾ませて言った。
「そうか。あっちの調達はどうなった?」
 チワワはミニチュアダックスに視線を移した。
「ポメラニアン隊長とヨーキー隊長がガソリンを、マルチーズ隊長とシーズー隊長が松ぼっくりと落ち葉を今夜中にここに運び込みます! ところでボス、そんなものなにに使うんですか?」
 怪訝な顔でミニチュアダックスが訊ねてきた。
「それは、明日のお楽しみだ。一つだけ言えることは、明後日になれば愛玩犬ファミリーの天下になっているということだ」
 チワワは二頭の顔を交互に見ながら言った。
 嘘ではない。
 天下を取るのは、愛玩犬ファミリーではなくチワワファミリーだということを除いては。
 チワワは二頭にわからないようにほくそ笑んだ。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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