第33回 愛玩犬ファミリー
新堂冬樹Fuyuki Shindou
「肢元にお気をつけください」
ライブハウスの地下フロアに続く階段――チワワは背後に続く土佐犬組長とピットブル特攻隊長に声をかけた。
「狭い階段ぜよ! 体が挟まりそうぜよ!」
「こないな狭苦しい階段、モタモタしか歩けんやないか!」
さっきまで上機嫌だった土佐犬組長とピットブル特攻隊長が、一転して不機嫌な声で言った。
「へっへへへ……苦あれば楽あり。夢の松阪牛は、まもなくですから」
チワワは、二頭の機嫌を取りながら階段を下りた。
歩くのが大変な場所を選んだのさ。お前らを皆殺しにするために……。
チワワはほくそ笑んだ。
階段を下りきると、開きっぱなしのドアの先に人間が百人ほど入れるスペースが広がった。
「おい、どチビ出目金犬! 松阪牛はどこにあるんや!?」
ピットブル特攻隊長が、フロアを見渡しながらチワワに訊ねてきた。
「こちらです!」
チワワは、フロアの中央に設置してある二メートル四方の木箱に駆け寄った。
「その木箱はなんぜよ?」
土佐犬組長が怪訝(けげん)な顔で木箱に近づいた。
「この中に、松阪牛が入っています!」
チワワは言った。
「はぁ!? なんでこないな箱に入れるんや! 出すのが面倒やないか!」
ピットブル特攻隊長の血相が変わった。
「特攻隊長の言う通りじゃき! すぐに喰えんぜよ!」
土佐犬組長も血相を変えた。
「すみません! ここは鼠(ねずみ)が多いので、組長と特攻隊長が召し上がる前に横取りされないように木箱に入れました。湿気も味を落とす原因になりますからね。僕は尊敬してやまないお二頭に、最上級の肉を最上級の味で提供したかったんです!」
チワワは、瞳を潤ませながら言った。
- プロフィール
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新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。
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- ★おまけ
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- 第42回 警察犬ファミリー
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