よみもの・連載

犬義なき闘い

第34回 警察犬ファミリー

新堂冬樹Fuyuki Shindou

 雑居ビルの屋上から、シェパードボスはさくら通りを見下ろしていた。
「誰もこねえな。チワワの野郎、しくじったんじゃねえのか?」
 シェパードボスの左隣に立つロットワイラーが顔を向けて訊ねてきた。
「いや、多少のリスクを背負ってでも、食い意地の張った二頭は必ず現れる」
 シェパードボスは、さくら通りを見下ろしたまま断言した。
「俺もそう思うよ」
 シェパードボスの右隣りに立つセントバーナードボスが同調した。
「まあ、それは言えるな。土佐犬野郎もピットブル野郎も豚みてえな犬だからな」
 ロットワイラーが吐き捨てた。
「あとは、何頭引き連れてくるかだ。こっちは、何頭だ?」
 セントバーナードボスの隣から、巨大犬ファミリーのサブボス、グレートデンがシェパードボスに訊ねてきた。
「下にウチが百頭、巨大犬ファミリーが五十頭。ビルの周囲に三十頭ずつ、五ヵ所にわけて配置してある」
 シェパードボスは、淡々とした口調で言った。
「こいつらと合わせて百七十頭ってわけか。まあ、単細胞な闘犬野郎を相手にするには十分だな」
 ロットワイラーが、背後で整列する二十頭を振り返り言った。
 二十頭は、ボクサー警部補、ラブラドール警部補、シェパード隊が七頭、ロットワイラー隊が七頭、ドーベルマン隊が四頭の編成だった。
 チワワの話では、土佐犬組長とピットブル特攻隊長が先にビルに入り松阪牛を喰らっている間、隊犬達は外で見張っているという。
 シェパードボスも同感だった。
 勝負をかけるのは、闘犬ファミリーのトップ2が中にいるときだ。
「土佐犬組長とピットブル特攻隊長のどっちを攻撃するか、決めておこうじゃないか」
 セントバーナードボスがシェパードボスに訊ねた。
「俺とロットワイラーはピットブル特攻隊長を襲撃する。お前達は土佐犬組長を頼む」
 シェパードボスは迷わず言った。
 ドーベルマンとハナを惨殺したピットブル特攻隊長の命だけは、ほかに譲れない。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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