「さすが親分！　木箱がぶっ壊れましたわ！」
　ピットブル特攻隊長が嬉々（きき）とした表情で、壁にぶつかり砕けた木箱のもとに駆けた。
「松阪牛が喰えるぜよ〜！　牛だけにうっしっしーぜよ〜！」
　土佐犬組長が珍しくダジャレを口にしながら、ピットブル特攻隊長のあとに続いた。
「うっしっしーなんて、親分はダジャレのセンスまで最高……」
　ピットブル特攻隊長が、言葉の続きを呑（の）み込んだ。
「急に黙って、どうしたがや？」
　土佐犬組長は怪訝な顔で訊ねた。
「親分、松阪牛がありまへん……」
　ピットブル特攻隊長が、強張（こわば）った顔で振り返った。
「おんしは、なにを言うとる……」
　床に転がっているのが松阪牛ではなく鶏肉だと気づき、土佐犬組長は絶句した。
「こらっ！　くそどチビ！　鶏肉っちゅうのはどういうことじゃ！」
「ワレ！　どチビ出目金犬！　鶏肉やて!?　いったい、どないなっとんのやボケ！」
　土佐犬組長とピットブル特攻隊長は、揃って鬼の形相でチワワに怒声を浴びせた。
「とととと、鶏肉!?　いいいい、いったい、なな、なんのことでしょう!?」
　チワワがしどろもどろに言った。
「おんし、なに惚（とぼ）けたこと言うとるがや！　まさか、わしらを嵌めるつもりで……」
　土佐犬組長の怒声を、複数の肢音が遮った。
　シェパードボスとロットワイラーに続き、警察犬ファミリーの隊犬が雪崩れ込んできた。
「なんじゃ！　おんしら！」
　土佐犬組長は犬歯を剥き、体の向きを変えた。
「ワレら！　なに勝手に入ってきとんねん！」
　ピットブル特攻隊長が、血走った眼を見開き犬歯を剥いた。
「おんしゃあーっ！　こんなマネしてただで済む思うとるがや！」
　土佐犬組長が、下腹を震わせるような怒声をチワワに浴びせた。
「ひっ……」
　チワワが素早い動きで、ロットワイラーの背後に隠れた。