よみもの・連載

犬義なき闘い

第36回 警察犬ファミリー

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「お前らは肢を出すな。こいつは、俺が仕留める」
 ピットブル特攻隊長に襲いかかろうとする七頭のシェパード隊犬を、シェパードボスは制した。
「端(はな)からワレが出てこんかい! こないな雑魚連れて、本気で俺らの寿命を取れると思ったんかい!」
 ピットブル特攻隊長の高笑いが、フロアに響き渡った。
「サブボスのドーベルマンとハナの寿命を奪った償いは、俺がさせてやる」
 シェパードボスはピットブル特攻隊長を見据え、押し殺した声で言った。
「あ? ドーベルマンサブボスっちゅうのは、笑けてくるほど弱い犬のことかい? で、ハナっちゅうのは、俺に首咬み切られてドーベルマンのちんぽを口に突っこまれた雌犬かい!?」
 ピットブル特攻隊長の高笑いが声量を増した。
 心で燃え上がる怒りの炎を、シェパードボスは消火した。
 冷静さを失えば勝ち目はない。
「その汚い口を、叩けないようにしてやる」
 シェパードボスは、ピットブル特攻隊長に突進した。
「その前に、ワレのマズル喰いちぎったるわ!」
 ピットブル特攻隊長も、シェパードボスに突進してきた。
 二メートル、一メートル、五十センチ……シェパードボスは跳躍した。
 ピットブル特攻隊長の背後を取ったシェパードボスは、背中に飛び乗り頸動脈を狙った。
 シェパードボスの犬歯が頸動脈に触れる寸前、ピットブル特攻隊長が振り返った。
 咄嗟(とっさ)に、シェパードボスは後退した。
 あと数秒判断が遅れたら、逆に頸動脈を咬みちぎられていた。
「なんや。あとちょいやったのにな」
 俊敏な動きで百八十度体を回転させたピットブル特攻隊長が、ニヤニヤしながら言った。
「ほな、今度は俺から行かせて貰(もら)うで!」
 ピットブル特攻隊長が低い姿勢で突っこんできた。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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