よみもの・連載

犬義なき闘い

第37回 愛玩犬ファミリー

新堂冬樹Fuyuki Shindou

 青褪(あおざ)める視界で、ロットワイラーが倒れていた。
 弱々しく四肢を動かすのが精一杯で、立ち上がることができないようだった。
「ロットワイラーさんを助けて……」
 チワワは弾かれたように、首を巡らせた。
 さっきまでロットワイラーに檄(げき)を飛ばしていたシェパードボスは、ピットブル特攻隊長に壁際に押し込まれて防戦一方だった。
 ボクサー警部補は頭部から夥しい量の血を流し、ラブラドール警部補は右前肢を骨折しているようだった。
 ドーベルマン隊四頭は二頭が鼻を、一頭が喉を喰いちぎられ、一頭が叩きつけられて瀕死(ひんし)の重傷を負っていた。
 まずい……。
 警察犬ファミリーには、シェパード隊が七頭とロットワイラー隊が七頭しか残っていない。
 相手の二頭が並みの犬なら、十四頭もいれば十分だった。
 だが、土佐犬組長とピットブル特攻隊長が相手となれば話は別だ。
 現に、シェパードボスとロットワイラーサブボスは犬歯が立たずに窮地に追い込まれている。
 そう言えば……。
 チワワは周囲に首を巡らせた。
 セントバーナードボスとグレートデンサブボスはどこだ?
 なぜいない?
 まさか、臆して逃げたのか?
 そうだとしたら……。
 チワワの脳みそが恐怖に粟立(あわだ)った。
 このままだと、殺されてしまう……。
 本当は巨大犬ファミリーもろとも殲滅(せんめつ)する予定だったが、作戦変更するしかなかった。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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