よみもの・連載

犬義なき闘い

第39回 闘犬ファミリー

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「わしの大事な鼻に傷をつけおって」
 床に横たわり動けずにいるロットワイラーに、土佐犬組長は唾液をかけた。
「おんしの内臓をまき散らして、隊犬の餌にしちゃるき!」
 土佐犬組長が大きな口を開け、太く長い犬歯を剥き出しにした。

 ピューッ!

 ロットワイラーの腹部を咬み裂こうとした土佐犬組長は動きを止め、耳をピクピクと動かした。

 ピューッ!

 また聞こえた。懐かしい音……どこかで聞いた音だ。
 土佐犬組長の記憶の扉が、ゆっくりと開いた。

 ピューッ!

 ――なんだなんだ、大きな体してるくせに臆病だな〜。

 ピョンピョン跳ねるカエルに、生後三ヶ月の土佐犬組長は驚いてパパの股間に逃げ込んだ。
 土佐犬組長は、甲高い鳴き声が苦手だった。

 ――龍馬(りょうま)、大丈夫だよ。これは本物のカエルじゃないから、攻撃はしてこないよ。

 パパは優しく龍馬の頭を撫(な)でながら言った。

 ――ほら、こんなふうにしても全然大丈夫。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

Back number