よみもの・連載

犬義なき闘い

第40回 警察犬ファミリー

新堂冬樹Fuyuki Shindou

 床に叩きつけられたシェパードボスは、背骨をしたたかに打った。
 土佐犬組長の体重で、息が詰まり呼吸ができなくなった。
 ピットブル特攻隊長との闘いで満身創痍(まんしんそうい)のシェパードボスには、致命的なダメージの蓄積だった。
 シェパードボスは立とうとしたが、全身が痺れて思うように動けなかった。
「ピットブルの仇じゃ! バラバラにしてやるぜよ!」
 犬歯を剥いた土佐犬組長が迫ってきた。
 ドーベルマンとハナのためにも、ここで寿命を奪われるわけにはいかない。
 だが、シェパードボスは立ち上がることができなかった。
 もはや、これまでか……。
 ピューッ!
 シェパードボスは、音がしたほうを振り返った。
 チワワが、カエルのおもちゃを肉球で踏んでいた。
 物凄い勢いで襲いかかってきた土佐犬組長の動きが、突然止まった。
 シェパードボスは眼を疑った。
 土佐犬組長は、彫像のように動かなかった。
 なにがいったい、どうなっている?
 フェイントか?
 いや、半死半生の自分にそんなことをする必要はない。
 だったらなぜ?
「なにやってるんですか! せっかくの僕のスーパーセーブを無駄にしないでください!」
 チワワが、カエルのおもちゃを踏みながら叫んだ。
 スーパーセーブ?
 チワワの叫んでいる意味はわからなかったが、千載一遇のチャンスなのはたしかだ。
 シェパードボスは死力を振り絞り、立ち上がった。
 いまのシェパードボスの咬合力(こうごうりょく)では、土佐犬組長の分厚く弛(ゆる)んだ皮膚を咬み裂くことができない。
 頑丈でダメージに強い土佐犬組長でも、内臓は別だ。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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