よみもの・連載

犬義なき闘い

第42回 警察犬ファミリー

新堂冬樹Fuyuki Shindou

 シェパードボスの頭部が、土佐犬組長の脇腹に衝突した。
 土佐犬組長の肋骨の折れる感触が伝わってきた。同時に、シェパードボスの頸部(けいぶ)に電流が走った。
 土佐犬組長がスローモーションのように崩れ落ちた。
 勝った……。
 シェパードボスは荒い息を吐きながら、事切れた土佐犬組長を見下ろした。
 素直に喜べなかった。
 理由はわかっていた。
 土佐犬組長には、闘う気がなかった。
 シェパードボスの攻撃を躱(かわ)そうともせず、すべてを受けていた。
 チワワが鳴らすおもちゃの音が聞こえてから、土佐犬組長の凶暴さが消えた。
 あのおもちゃに、いったいどんな思い出が……。
 意識が遠のき、視界が流れた。
 土佐犬組長の横に、シェパードボスは倒れた。
 シェパードボスの背中が波打ち、大量の血が口から迸(ほとばし)った。
 気力を振り絞り、首を擡(もた)げた。
 ロットワイラーは倒れたまま、微動だにしなかった。
「おい……大丈夫か?」
 シェパードボスは掠(かす)れた声で呼びかけた。
 ロットワイラーの耳がピクリと動くのを見て、シェパードボスの胸に安堵(あんど)が広がった。
 瞼が重くなってきた。
 ドーベルマン、ハナ……頼りないボスで、悪かった。
 そして、ビーグル神父……。
 闘犬ファミリーを倒すため……情けを捨てるためとはいえ、取り返しのつかない罪を犯してしまいました。
 そちらに行って謝りたいのですが、罪深き私は虹の橋を渡ることはできそうにもありません。
 次に犬生を送るときは……。
 瞼が落ちてくる、落ちてくる、落ちてくる……。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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