よみもの・連載

犬義なき闘い

エピローグ

新堂冬樹Fuyuki Shindou

 ロットワイラー、セントバーナードボス、グレートデンサブボスの三頭は、周囲に視線を巡らせながら新宿東口をパトロールしていた。
 あの闘いから一ヶ月……いつも隣にいたシェパードボスは、もういない。
 土佐犬が肢腰が悪くなったシニアのミニチュアダックスを背中に乗せ、通りを横切っていた。
 反対側の通りでは、三頭のピットブルテリアが肉を小さく嚙(か)みちぎり、柴犬のパピー五頭に食べさせていた。
 ナンバー1と2を失った闘犬ファミリーの隊犬達は、ロットワイラーの提案に賛同して「ワンドッグファミリー」に加入した。

 ――俺には……時間がない。聞いて……くれ。闘犬ファミリー……の隊犬……を受け入れて……やって……くれ。敵味方に……分かれて……争っていたが……俺らは……もともと……同じ犬同士……仲間だ。土佐犬組長も……ヒトに飼われていたときは……いまとは……違ったはず……。これからは……巨大犬ファミリー、闘犬ファミリーと……力を合わせて……一つのファミリーで争いごとなく……。

 シェパードボスの最期の言葉が、ロットワイラーの脳裏に蘇った。
「ワンドッグファミリー」は派閥も対立もない犬種を超えたファミリー……シェパードボスが望んだ、犬同士力を合わせて平和に暮らしてゆく世界を作るためのファミリーだ。
 最初は難色を示していた闘犬ファミリーの隊犬達も、ロットワイラー、セントバーナードボス、グレートデンサブボスの粘り強い説得に根負けした。
 ロットワイラー達がパトロールしているのは、以前と比べて争いごとはほとんどなくなったとはいえ、たまに悪さをする半グレ犬から住犬を守るためだ。
 ロットワイラーの視界に、背中を怪我したゴールデンレトリーバーの傷を舐めて治療しているトイプードルの姿が入った。
「あ、こんにちは!」
 ロットワイラー達に気づいたトイプードルが駆け寄ってきた。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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